裸言-LAGON-
パーソナリティー
高杉圭一
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2005年10月執筆作

新聞の片隅にあった小さな求人広告、“高待遇にてお迎え致します”。仕事内容は書かれていなかったが、僕はとにかく金が欲しかった。
思い立ったが吉日。
早速新聞に書かれていた住所を辿り、履歴書を持って直接そこを訪ねてみることにした。
繁華街の外れに建つ廃屋のような雑居ビル“崩山ビルヂング”。
それが新聞に書かれていた会社の住所だ。
中に入ると薄暗く、とても人が出入りしているような気配はなかった。
更に暗い奥まったエレベーターホールに立つと、エレベーターは1階に止まっていた。
ボタンを押そうとして指を差し出すと、どういう訳か軋んだ音をたてて扉が勝手に開いた。
しばらく人の乗降がないのだろう。
エレベーターの中は湿気ていて、ひどく黴臭かった。
薄暗い安蛍光灯が点っている。
その蛍光灯が時折ジリリと音をたてる。
僕は思いのほか荒れ果てたこの状況に、しばしの間戸惑った。
こんなところにまともな会社など入っているはずがない。
そう思うと何だか気が滅入った。
しかしここまで来たのだから帰るのも惜しい。
とりあえずどんな会社なのかだけでも見て帰ろうと、“B2”と書かれた色の剥げた丸ボタンを押した。
突如として作動した重苦しいモーターの振動が、床を通じて体に伝わってきた。
大儀そうに動き出したエレベーターは、やがて老人のようにゆったりとしたスピードで地階に下りだした。
男の唸り声のようなモーターの音が、陰気なエレベーターの中に響いている。
扉の上にある階数表示灯が、まもなく“B1”に差し掛かろうとしていた。
黙り込んでそれを見上げていると、エレベーターの床下から妙な音が聞こえてきた。
それはモーターの音とは明らかに違う、聞いたことがないような重低音だった。
表示灯の明かりが“B1”を過ぎて“B2”を点灯させた瞬間、ガクリと揺れてエレベーターが止まった。
扉の正面に立ったがいつまで経っても開かない。
“開”ボタンを押してみたが反応がない。
モーターの音が止まり、エレベーターの中を静寂が支配した。
手の平で冷たい鉄の扉を叩いてみたが、その音だけが虚しく響くだけだった。
“緊急ボタン”を見つけてそれを押してみた。
しかしこれも反応がない。
上の方へ向かって大声を張り上げてみたが、それに答えてくれる者はなかった。
すると突然、再び床下から体を揺さぶられるような重低音が聞こえてきた。
それと同時に、エレベーターが更に地下へと下りだした。
階数表示は“B2”までしかない。
地下へと下るスピードが、先程の老人のような動きとは比べものにならない程に早い。
徐々に加速するそのスピードは、まるで若者が全力疾走しているかのようだ。
それはもう、下っているというよりは落ちている感覚に近い。
すると突然、緊急ボタンの上にある小さなスピーカーから、大勢の人達の唸り声が聞こえてきた。
僕は叫び声を上げながら、更なる地下へと落ちて逝ったのだった……。

2010,03,09, Tuesday
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